短編小説で太宰治ぶりの興奮!韓国文学パク・ミンギュの『カステラ』が面白かったのでレビュー

 

先ほど、パク・ミンギュの『カステラ』を読み終えました。

この短編集を読んだだけではありますが、「きっとこの作家の作品は全部好きだ!」と思いました。これは、太宰治を初めて読んだ時ぶりの感情です

と言っても、太宰治も『人間失格』『女生徒』とか有名どころを嗜んだだけの、特別“文学好き”というわけではない私ですが、とにかく、『カステラ』がとても気に入りました。

つまり、パク・ミンギュの小説は、文学好きじゃない人も、面白くスラスラ読める素敵な作品である、と言いたい。

 

 

スポンサーリンク

 

 

 

パク・ミンギュとその作風

出典:http://www.cottage-keibunsha.com/events/20171119/

今回『カステラ』を読んでみて、物語の主人公たちがほとんど大学生だったので、そしてその心情がとても細かく表現されていたので、パク・ミンギュもそこそこ若いのかと思っていましたが、1968年生まれなので、50歳ということでしょうか。意外でした。

大学卒業後8年間は、海運会社や広告代理店、出版社など、様々な職を転々としていたそうです。しかし、小説が書きたいという思いが強くなり、作家に転身。

2003年に『地球英雄伝説』で文学トンネ新人作家賞、さらに『三美スーパースターズの最後のファンクラブ』でハンギョレ文学賞を同時に受賞するという凄まじいデビューにより、韓国文学界で注目を集め、人気作家としての地位を確立してます。

私が今回読んだ『カステラ』も、申東曄(シン・ドンヨプ)創作賞を受賞。さらには、日本でも日本翻訳大賞を受賞しています

 

パク・ミンギュの作風は、癖になる独特な文体と、奇想天外なストーリ展開、閉鎖的で生きづらい社会に対する批判的視点を持った作品だと思います。

悲しい現実や不利な状況とかに焦点を当ててみると、それが「笑い」に変わる。パク・ミンギュの短編は、まるでコント師のコントのようだな、と思いました。

 

『カステラ』の訳者あとがきには、こう書かれています。

彼の作品の登場人物は、ほとんどが資本主義社会の論理によって傷つけられ、そのシステムから疎外されている人たちである。

(中略)

しかし彼らは、ときには挫折したりあきらめたりしながらも、自分の現実を乗り越えるために必死で努力し続ける。そしてその結果、この資本主義社会の中で生き残るための、自分なりの突破口にたどり着くようになる。

 

 

私は、Burialの「Come Down To Us」をふと思い出しました。

暗くて苦しくて、でも、とても美しくて希望が確かにそこにある、ような曲。聴いていると救われる、大好きな曲です。

 

 

パク・ミンギュの小説もそんな感じ、なのか疑問ではありますが、とりあえずそうだ、と好き勝手に言ってみることにします。

 

 

 

「アメトーーク!」で紹介

パク・ミンギュは「アメトーーク!」の読書芸人で紹介されていました。オアシズ光浦さんが“今年読んだ好きな本”の一つに『ピンポン』を挙げていましたね。

 

 

読書好きな方々の間では、かなり注目されている作家のひとりであります。

 

そもそも私は、韓国ドラマがすごく好き。まあ、これも嗜む程度ですが。韓国映画も同じくです(去年話題になった『お嬢さん』『哭声/コクソン』『アシュラ』も観なくちゃ!と思っています。つまり全然観てない)。

韓国はドラマや映画だけでなく、小説もこんなに面白かったとは。

あと、韓国で人気が出るものも好きで、それは主に映画なんですけど、例えば、岩井俊二だったり(岩井俊二監督の映画『花とアリス』で蒼井優は韓国で大人気、BIGBANGのG-DRAGONをはじめ多くの方が蒼井優ファンだと公言しています)、グザヴィエ・ドランだったり、日本でのそれよりも人気だなーなんかいいなーと思ってました。

で、パク・ミンギュはそんな韓国で人気の作家さん、そして読書大好きな光浦さんが好きな本ってことで、めちゃくちゃ気になっていたんです。

とか言いつつ、繰り返しになりますが、私は文学好きというわけでは到底ないので、まずはお試し的な気持ちで、いきなり長編小説の『ピンポン』ではなく、短編集の『カステラ』を読んでみようと思ったわけでした。

 

 

スポンサーリンク

 

 

カステラを読んでみて

ちなみに私は短編より長編小説の方が好きで、短編が面白いと思ったのは太宰治だけだったのですが、『カステラ』、とっても良かったです。むしろ今はビバ!短編!という気持ち。

『カステラ』に収録されている作品のタイトルなんですが、この時点でもう心を奪われていた気がします。

  • カステラ
  • ありがとう、さすがタヌキだね
  • そうですか?キリンです
  • どうしよう、マンボウじゃん
  • あーんしてみて、ペリカンさん
  • ヤクルトおばさん
  • コリアン・スタンダーズ
  • ダイオウイカの逆襲
  • ヘッドロック
  • 甲乙考試院 滞在記
  • 朝の門

 

この中で私が特に気に入ったのは、「カステラ」「ありがとう、さすがタヌキだね」「そうですか?キリンです」「朝の門」でした。あ、でも、ほんとに全部良かったです。

 

 

「カステラ」

冷蔵の世界から見たら、

この世はなんて腐りきっていることか。

あらすじを超ざっくり言うと、世の中に大切なものと害悪を及ぼすものを冷蔵庫にどんどん入れていく、というお話。独特ですよね。

私はパク・ミンギュの作風をまったく知らずに読み始めたので、主人公が冷蔵庫に「両親」「大学」「アメリカ」「中国」などをどんどん入れていくっていう展開にかなり度肝を抜かれました。

 

「ありがとう、さすがタヌキだね」

自分でもすごいと思う。よくもまあこんな仕事が四ヶ月もつとまったもんだと。インターンは全部で八人。つまり、僕は七人の競争相手と一緒に仕事をしているわけだ。給料だなんてとても言えない往復の交通費程度の報酬で、仕事はほぼ徹夜。六ヶ月の研修が終わったら、この中から一人が正社員に抜擢される。で、残り七人は?さあね。人事部長からは「いい経験だと思ってください」と言われたが、これで落とされた日にゃあね。

この文体がとても好きです。この表現力が好きになった理由です。読んでて最高に楽しい。

だから、前の「カステラ」もそうでしたが、ただただ面白く読んでて、物語の背景にある暗さに全然気づかなかったんですよね。

あと、職場の上司がタヌキのゲームをしたことでタヌキに夢中になり、終いにはタヌキになってしまう、っていう奇想天外な展開にまたしても度肝を抜かれました。ですが、これもまた資本主義社会の生きづらさを巧みに描いていた、というわけ。

 

「そうですか?キリンです」

先ほど述べたように、パク・ミンギュのユニークでコミカルな文章によって気づかなかったのですが、彼の小説に出てくる登場人物たちの環境は、悲しいくらい平凡すぎる、そして幸福ではない?、ということにようやく気付きました。

この「そうですか?キリンです」では、それが分かりやすく出ている作品だと思います。

僕はいつも不満でいっぱいだった。最初のうちは感じなくてもだんだん不満が出てくるものなんだよ、そうやって社会を学んでいくのさとコンビニの店長は言った。

(中略)

少なくとも二千ウォン分の仕事はしていると僕は常々思っていた。千ウォンなんてことがあるかい。暑い上にも暑く、ケチな上にもケチな、この地球。

まもなく電車がまいります

危ないですから、乗客の皆様は白線の内側までお下がりくださるべきだが、そんなことができるわけがない。乗客はみんな電車に乗らねばならないし、車内にはもうすき間がない。

やっぱりこの言い回しが良いですね。

 

 

「朝の門」

この作品は日本の芥川賞に相当する、李箱(イ・サン)文学賞を受賞していて、『カステラ』日本版のみに特別収録されています。

『カステラ』に多く収録されている、タイトルに動物が入ってるシリーズの日本語訳はヒョン・ジェフンによるものでしたが、この「朝の門」は斎藤真理子となっています。どちらの訳も、本当に素敵で大好きだし、パク・ミンギュを日本語で読めることに本当に感謝です。

なので、他の短編とは文体も内容も少し違っています。暗いです

 

 

内容は、集団自殺に自分だけ失敗してしまい、それでもまた自殺を試みる男性と、自分が妊娠したことを誰にも相談できずに一人で出産し、その赤ちゃんを見捨てようとした女性のこと。

この世は、住民登録証を持った怪物、学生証を持った怪物、名刺を持った怪物であふれている。そいつらが互いに、「怪物さん」と呼んで暮らすわけにもいくまい? それで考え出したのが「人間」という単語じゃないかと、彼女は考える。

家族のせいだと、彼女は考える。

(中略)

寛大にして無慈悲……ひどく干渉するが、彼女のことがわかっているわけではまったくない。一つの家に暮らしていて、お互いを「怪物さん」と呼び合うわけにもゆくまい? それで作り出した言葉が家族だと、彼女は考える。

この部分、ドスンときた。

底知れない孤独。そして、人間に対する不信感と恐怖心、強烈な絶望。

これを読んでいた時、私は並行して、友達と旅行の計画を立てようとLINEグループを作ったんです。でも、誰も返事をしてくれなくて、やっと返事がきたと思ったら、私の提案を全否定した挙句、それに代わる案を一切出してくれない、っていう対応を食らって、ちょうどメンタルへし折れてた時だったんです。

そのせいかな、この部分で泣いてしまったのは。

まさか、そんなしょうもないことではなく、

その理由は、

いつも周りの人や知らない人の目が怖くてビクビクしている私が、少しでも共感できてしまったからなのでしょう。

でも、惹きつけられるように何度も読んでしまいます。

 

そして無性に聴きたくなったこの曲。

あと、この曲も。

音楽を聴きながら本を読むのも好きなのですが、この曲を聴きながら読んだら、めちゃくちゃ悲しくなってしまいました。

頭の中で悲しい映画が出来ましたよ。

 

 

 

明日は月曜日で、資本主義社会の論理によって傷つけられ、そのシステムから疎外された私の一週間がまた始まろうとしています。

職場の人たちを、「怪物さん」と呼んで働くわけにもゆくまい?

 

『カステラ』は、この世界はあまりにもしょうもない、とか、自分の人生ってダサい、とか、何もない毎日を過ごしてる、みたいに感じる時期に読むと、結構沁みるんじゃないかなと思います。

なのに、面白くて笑えるってすごい。

パク・ミンギュ、恐るべし。

 

 

 

 

 

スポンサーリンク